【アニメーション12の原則】Appeal (アピール)とは -命を吹き込む魔法-

今回はディズニーの本『The Illusion of Life』に書かれているアニメーションの12の原則の『Appeal (アピール)』についての内容を詳しく説明していきます。

実際に『The Illusion of Life』に書かれている内容や、この原則が使われているディズニー映画のシーンも合わせて説明していきます。

アニメーションの12の原則の内容を簡単にまとめてあるページもあるので、ぜひそちらもご覧になってください。

 

Appeal (アピール)

キャラクターを作る時は、動きやデザインなどで観客に訴え、観ている人が眺めていたいと思えるものを作らないといけません。

アピール(訴える力)は初めから大切な要素だった。アピールというと、かわいらしいウサギちゃんとか、ふわふわした子猫ちゃんがもつものだと思われがちだ。私たちはその言葉を、人が眺めたいと思うもの、人を引きつける性質、楽しいデザイン、簡潔さ、観客に訴える力、吸引力という意味で使った。人はアピールのあるものに目を奪われ、対象を観賞するあいだ視線はそこに釘付けになる。印象の強いヒロイックなキャラクターにはアピールがある。悪女は冷酷で芝居がかっていたりするが、それでもアピールがなければならない。さもないと悪女のすることを見ていたいとは思えなくなる。醜く不快なキャラクターも視線をとらえはするが、それだけではキャラクター像を深めることも、キャラクターを状況に結びつけることもできない。衝撃を与える効果はあっても、ストーリーを盛り上げることはできないのだ。

生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.72 より

参考:ジョン・ラセター『Luxo.Jr』(1986) Pixar Animation Studios より『トイ・ストーリー』『ルクソー.Jr』などの監督でありピクサーとディズニー、両スタジオの元チーフであるジョン・ラセターもこのアピールは重要であると考えています。

ジョン・ラセターはヒットする映画の3原則を以下のように考えました。

・観客が夢中になるような 予測のつかない物語を作り上げる
・登場人物が魅力的である 悪役であっても魅力的に
・ストーリーもキャラクターにも真実味があること

魔法の映画はこうして生まれる/ジョン・ラセターとディズニー・アニ メーション』(2015)より

この中の『登場人物が魅力的である 悪役であっても魅力的に』が12の原則でいう『Appeal(アピール)』です。アニメション12の原則だけでなく、ラセターの提唱する3原則にも入るほど『Appeal(アピール)』は重要な存在です。

 

ヒーローはヒーロー、悪役は悪役らしく 

まずアピールで重要なのは ヒーローならヒーロー、悪役なら悪役らしい動きやデザインにするということです。 これを意識することで両キャラクターは、よりアピールする力が増し魅力的なキャラクターになります。
ヒーローと悪役に魅力があると、作品全体にも魅力がでてきます。

参考:映画『バットマン ダークナイト』(2008)メイキング動画 より

ヒーローはもちろん大事な存在ですが、それと同じくらい悪役の存在も重要です。
本にも書かれている通り、悪役は物語の『原動力』です。

つくっていて一番面白いのは、たいてい悪役キャラクターである。悪役は物語を動かす原動力であり、チャップリンも言っているように、ヒーローよりずっと生彩に富んでいる。劇的だったり恐ろしかったり陰険だったり滑稽だったりとさまざまだが、悪役は必ず普通とは違う個性を備えている。姿形がきまらないうちから、彼らがストーリーの中で果たす役割はもうわかっているし、観客にどんな印象を与えるキャラクターでなくてはなら ないかもだいたいわかってくる。

生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.421 より

物語には主人公と対立する何らかの存在が必要です。
その存在が一番わかりやすいが悪役のキャラクターです。

物語には悪役の役割が必ずあります。
その役割を説明をすることなく伝えるには、見た目や動きなどの『視覚情報』が重要です。

人間は初対面の人と会った瞬間から数秒の『第一印象』でその人がどういう人か判断してしまいます。その時に最も重要になってくるのが見た目や、仕草などの『視覚情報』です。

つまりキャラクターも『第一印象』の『視覚情報』が非常に重要になってきます。
観ている人は初登場シーンの『第一印象』で、そのキャラクターの役割を判断してしまいます。

そのため、「優しそうに見えて実は敵だった」というような驚かし要素を入れる必要がないのであれば、ヒーローはヒーローらしく、悪役は悪役らしく作ることが重要です。

 

キャラクターの特徴を押し出す

ヒーロー、悪役だけに限らず、キャラクターにはそれぞれの個性が表れます。
その個性をより押し出したデザイン、動きにすることでキャラクターはより魅力的になります。

たとえば筋肉質なキャラクターがいたとします。
そのキャラの筋肉は現実の世界と全く同じような大きさにする必要はありません。

参考:映画『アベンジャーズ』(2012) より

むしろキャラクターの特徴である筋肉を全面に押し出し出す方が良いという場合もあります。
現実ではあり得ないほど胸板を出したり、バキバキの腹筋を作ったりしてもいいのです。

このとき重要なのは、そのキャラクターが人間である場合、人間にない筋肉や膨らむはずのない部分を膨らませてはいけないという点です。
それは誇張表現ではなくディズニーのいう 「嘘」となってしまうのです。

(アニメーションの)キャラクターは、説得力のないことや、アニメーターの賢さをひけらかすようなことをしがちだけれど、それは現実じゃなくて嘘になってし まう」。ウォルトは信憑性を損なうものは受け入れなかったが、アクションの狙いさえ正しければ、表現を抑えろと要求することはまずなかった。

生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』pp.69-70 より

参考の『アベンジャーズ』のハルクも、もとは人間なのでパッと見た感じでは人間と同じ筋肉の作りになっています。
そのため人間からこの姿になったといっても説得力があるキャラクターになっているのです。

 

キャラクターの魅力を引き出す

キャラクターに魅力を引き出すには、
観ている人にそのキャラクターについて知ってもらう必要があります。

たとえば、みなさんご存知の『ドラえもん』。
主人公ののび太は運動音痴、さらに丸い大きなメガネをかけることで、どちらかといえば弱そうなイメージになっています。対してジャイアンは、名前からして強そうですし、見た目も全体的に大柄で暴力的なイメージのキャラクターに仕上がっています。

のび太の『さえないイメージ』と、ジャイアンの『暴力的なイメージ』は見た目だけでも伝わってきます。

参考:映画『STAND BY ME ドラえもん』(2014)より

ヒーローと悪役の項でも説明した通り観ている人は無意識のうちに、キャラクターの見た目や動きから、そのキャラクターがどういう存在なのかを判断します

参考:映画『STAND BY ME ドラえもん』(2014)よりそしてストーリーを見ていく中で、そのキャラクターのより深い部分までわかってきます。
「のび太はさえない奴だけど、優しい心を持ってるし彼だけの特技もあるのか!」
「ジャイアンはいじめっ子だけど、友達が本当にピンチの時は助けてくれる奴なのか!」

見た目から入りより深くキャラクターを理解したとき、そのキャラクターに魅力が生まれるのです。

 

ディズニー作品での実用例

ディズニーが取り入れている最も強いアピールの1つが『ディズニー・ヴィランズ』の存在です。
(通常『ヴィランズ』は『ヴィラン(悪役)』の複数形ですが、以下では複数でない場合も『ヴィランズ』とします。)

ディズニー映画には必ずと言っていいほど『ヴィランズ(悪役)』が登場します。
そして大半のヴィランズは一目見ただけで悪役とわかるデザインになっています。

映画『ライオン・キング』(1994)より

左が主人公のシンバ、右がヴィランズのスカーです。
スカーは色合いや毛の質感だけでも悪役とわかるデザインになっています。
さらに,目に傷をつけることでよりヴィランズとして効果的なアピールをしています。

映画『ヘラクレス』(1997)より

『ヘラクレス』のハデスも肌の色やドクロマークなどから、一目で悪役とわかるデザインです。

『スターウォーズ』には世界的に有名な悪役ダース・ベイダーがいます。
(スターウォーズ6部作はディズニー買収前のルーカスフィルムの作品ですがディズニー作品として紹介します。)

映画『スター・ウォーズ エピソードⅢ/シスの復讐』(2005)より

ベイダー卿も今までのヴィランズ同様一目でわかる悪役のデザインです。

映画『スター・ウォーズ エピソードⅤ/帝国の逆襲』(1980)より

また、スター・ウォーズでは主人公側と敵側とでライトセイバーの色を変えています。
主人公側は青か緑、敵側は赤色、と説明がなくともどちらが味方でどちらが敵かのイメージがつくような色になっています。

主人公側であるジェダイは何人もいますが、初めて見るキャラクターでもライトセイバーの色を見ればどちら側かが一瞬で分かるというとても分かりやすく効果的なAppealです。

このようにディズニー・ヴィランズは、その多くが見た目だけで悪役とわかるデザインをしています。ディズニー公式ページにもヴィランズのページがありますが全キャラ悪役らしいデザインをしています。

 

まとめ

ディズニーがここまで成功したのは、
すべてのキャラクターに魅力がある、つまりはアピールの力が強い
というのが大きな理由の1つだと思います。

ユニバーサルの『ミニオンズ』も同じような理由でヒットした一例です。

『ミニオンズ』公式サイト より

アピールに成功すればキャラクターに魅力が生まれ、作品にも魅力が出てきます。

物語ももちろん重要ですが、同じくらいキャラクターも重要です。
特に主人公、悪役は誰が見ても魅力を感じるようなデザインにすることを心がけましょう。

2019年9月3日ディズニー, 映像制作, 映画

Posted by Lic