【アニメーション12の原則】Anticipation(予備動作)とは -キャラクターに命を吹き込む魔法-
今回はディズニーの本『The Illusion of Life』に書かれているアニメーションの12の原則の『Anticipation(予備動作)』についての内容を詳しく説明していきます。
実際に『The Illusion of Life』に書かれている内容や、この原則が使われているディズニー映画のシーンも合わせて説明していきます。
アニメーションの12の原則の内容を簡単にまとめてあるページもあるので、ぜひそちらもご覧になってください。
Anticipation(予備動作)
現実では何事にも動く前には予備動作が入ります。
まずは下の画像を見てください。
次にミッキーはどのような動きをするでしょうか。
右手を大きく振りかっぶっていることから、おそらく多くの人はこの後、右手を前に勢いよく突き出す動きをすると想像したと思います。
作中ではその想像通り、シャドウボクシングのような動きをしていました。
1枚の画像からでも、次に何をするのかなんとなくは予想できたと思います。
このようにその動きを見た後、次にどのような動きが来るかを予想させる動きを『Anticipation (予備動作)』といいます。
この予備動作、アニメーションでは特に意識して取り入れる必要があります。
本にも書かれている通り、予備動作を取り入れないとキャラクターのアクションは不自然に見えたり、力の無いものになってしまいます。
現実の世界では、動きにはたいてい何らかの予備動作が伴う。生きものの動きには予備動作があるのが自然で、それなしではどんなアクションもほとんど力を失ってしまう。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.57 より
一連の動きの中に予備動作が入ることで、見ている人は次の動作を予想することができます。
そしてその予想した動作が実際に起こることで、見ている人は気持ちよくスムーズに内容を理解することが出来ます。そのため急なアクションが入ってきても、内容を理解しながら動きについていくことができるのです。
先ほどのミッキーの動きは素早いアクションながらも何が起きているのか理解することができます。これはすべての殴る動作の前に予備動作が入っているためです。
予備動作を使って次にどのようなアクションがくるのかを見ている人に予想させることがこの原則の肝となる部分です。
アニメーションを作るときは、観客を 1 つの動作から次の動作にまちがいなく導くよう に、アクションの連続性を計算する必要がある。さもないと、観客はスクリーンでおきてい ることが理解できなくなってしまう。観客が次の動きに対して心の準備をし、実際に見る前にそれを予想するようにしむけるのだ。そのためには、主要な動作の動きの前に、次におきることを観客に予想させる明確な動作を加えればよい。この〈予備動作〉は、表情の変化のような小さなものにもあるし、肉体を派手に使ったアクションのように大きなものにもある。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.55 より
ディズニー作品での実用例
予備動作には様々な種類があります。
体を大きく派手に動かすわかりやすい動きから、表情や目線などの小さな動き、
また、映像作品ならではの予備動作の演出をする表現方法もあります。
実際の作品を見ながらいくつかご紹介していきます。
体を大きく使った予備動作
冒頭で紹介したミッキーのように体を大きく動かす予備動作はわかりやすいです。
下のシーンのように走り出す前に勢いをつける動きも予備動作です。
下のシーンのようにジャンプする前に足を曲げる動きも予備動作です。
どちらも現実では当たり前にする動きですが、アニメーションでは意図的に取り入れなければなりません。
こういった大きな動きは取り入れないと違和感のある動きになってしまいます。
表情などの小さな予備動作
表情の変化だけのような小さな予備動作もあります。
例えば目線の動きです。
体の動きと違って意識して見ていないとわかりませんが、現実でも実際に目線の動きで次の行動を何となくの予想をすることはできます。
(実際メンタリストも目線などから人の心を読んでいきますね。)
目は口ほどに物を言うといいますがまさにその通りです。
下のシーンはアナと雪の女王の『Let It Go』のシーンですがエルサの目線に注目してみてください。
※再生すると該当のシーン(2:55~)から再生されます。
まずは王冠をとってそれを見つめます。そして次に王冠から目を離し遠くの場所に目を向けます。
王冠を見つめたり、一度遠くの場所を見る動作を入れることで、その王冠を遠くに投げるのではないかと予想させています。このような小さな予備動作も有るのと無いのとでは大違いです。
アニメーションでは現実よりも少しわかりやすく目線を動かすことで、目線の動きを意識していない人に対してでも無意識のうちに動きを理解させることができます。
映像作品ならではの演出による予備動作
この予備動作は12の原則のうちのStaging (演出)と少し関連している内容です。
ぜひそちらのページも合わせて読んでみてください。
映像作品は画面の中でストーリーを描き伝えます。その限られたキャンバスの中で作品を効果的に表現するには画面のレイアウトを考える必要があります。
予備動作はこの画面のレイアウトを使って表現することもできます。
下のシーンをご覧下さい。
次にどんなことが起きるか予想できますか?
画面中央より、やや左にドナルドがいるため右側にスペースが生まれます。
扉も開いていることから、扉から何かが出て来るのではないかと予想することができると思います。
作中では以下のように扉からお化けが出てきます。
このシーンのように画面のレイアウトによって、次にどうなるのかを予想させることもできます。
たとえば下の画像のように望遠鏡で風景を眺めるシーンがあったとします。
この時、左の画像では風景を見ている人と、見ている風景の内容を一緒に説明することができます。こういった画面レイアウトにするのが一般的で、Staging(演出)では重要になる配置です。
しかし、右の画像のような画面レイアウトにすることで、風景を見ている人の後ろで何かが起きるのではないかと予想させることができます。
つまり右の画像は、Anticipation(予備動作)を取り入れた画面レイアウトということです。
このように映像作品ならではの画面やシチュエーション、演出を使ったAnticipation(予備動作)もあります。
まとめ
今回は予備動作についての内容でした。
みなさんが普段、当たり前にとっている行動の中には予備動作がたくさん含まれています。そして、それらをアニメーションに取り入れることで行動にリアリティのあるアニメーションにすることが出来ます。
普段の生活でやっている行動を意識して観察することで、様々な予備動作を発見することができます。
今回紹介した予備動作の内容はあくまでも一例です。
ぜひ多くの予備動作を発見し、作品に取り入れてみてください!