【アニメーション12の原則】Follow Through and Overlapping Action(あと追いの工夫)とは -命を吹き込む魔法-
今回はディズニーの本『The Illusion of Life』に書かれているアニメーションの12の原則の『Follow Through and Overlapping Action(あと追いの工夫)』についての内容を詳しく説明していきます。
実際に『The Illusion of Life』に書かれている内容や、この原則が使われているディズニー映画のシーンも合わせて説明していきます。
アニメーションの12の原則の内容を簡単にまとめてあるページもあるので、ぜひそちらもご覧になってください。
Follow Through and Overlapping Action(あと追いの工夫)
何かが動き出し止まる時、全てのパーツが同時に動き出し、全てのパーツが同時に止まることはほとんどありません。
そのためアニメーションを作るときに、全ての動きを同じタイミングで止めてしまうのではなく、あえて動きをずらす事で動きにより実在感のあるキャラクターが生まれます。
この原則は本にも書かれている通り以下の5つのカテゴリーに分けられます。
(※本では5つのカテゴリーの名前は特に決められていませんが、このページでは説明がしやすいため本サイトが考える名称をつけています。)
カテゴリー1『慣性』
カテゴリー2『オーバーラッピング・アクション』
カテゴリー3『ドラッグ』
カテゴリー4『フォロー・スルー』
カテゴリー5『ムービング・ホールド』
あるカットに登場したキャラクターが次のアクションに移るとき、いきなり完全に動きを止めてしまうことがよくあった。それはぎこちなく不自然に見えたが、どうしたらいいのか誰にもわからなかった。ウォルトはこの問題に気をもんで、こういった「物体の全体が一度に止まることはないんだよ。最初にある部分の動きが止まって、それから他の部分が止まるんだ」。やがて、この問題を解決する方法が開発された。それは〈フォロー・スルー〉と〈オーバーラッピング・アクション〉などと呼ばれたが、両者の区別は厳密ではなかった。その方法は、だいたい次の 5 つのカテゴリーに分類できた。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.63 より
カテゴリー1『慣性』
1. キャラクターの体に、長い耳やしっぽやコートの裾などの出っぱった部分があれば、 そこは体の他の部分が止まったあとも動き続ける。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.63 より
走っているキャラクターの体が急停止したとき、髪の毛や服の裾などの体と別の部分は、それまで動いていた動きを続けようとして体と同時に止まることはありません。
身近な例を挙げると電車がわかりやすいです。
電車自体をキャラクターの体とした場合、電車に乗っている私たち乗客は先ほどでいう、髪の毛や服の裾の部分と考えることができます。
電車が急停車すると、乗客は慣性に従って電車の進行方向に体がもっていかれます。
この時、電車の停止と同時に私たちの動きが止まることはありません。
このようにアニメーションにも、現実の世界でいう慣性というものが必要です。
カテゴリー2 『オーバーラッピング・アクション』
2. 体そのものも一度に動くわけではなく、伸びたり、止まったり、ねじれたり、曲がったり、縮んだりしながら、各部が拮抗して動く。ある部分が止まっても、他の部分が動いていたりする。体が静止したあとも、腕や手がアクションを続けることもある(義足のピートの腹はゆさゆさと揺れ続ける動きを延々続ける)。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』pp.63-64 より
人間の動きはよく見るとほぼ全て違うタイミングで動き出し、止まっています。
例えば、誰かに呼ばれてゆっくり後ろを振り返る場合の動きを意識してみて下さい。
まず呼ばれたことに気づき頭が最初に後ろに振り返ろうとします。
そして胸、腰、足と頭から近い順に後ろを向いていきます。
全ての部位が同時に後ろを向き、同時に止まることはありません。
すべてが同時に動き、止まるモーションにするとそのキャラクターは機械の人形のようなものになり、生きたキャラクターにはなりません。
カテゴリー3 『ドラッグ』
3. 太った人物の頬やドナルドの胴体やグーフィーの全身のように、キャラクターの体にたるんだ部分があれば、そこは骨格より動きが遅くなる。アクションの中で一部があとからついてくるこの手法は「ドラッグ」(のこし)などと呼ばれ、生きものの姿に柔らかいところと硬いところがあるという実在感を出すのに役立つ。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.64 より
キャラクターの中には太っておなかが出ているものや、ブルドッグの顔のように体にたるみがあるキャラもいます。
アニメーションでは、そのたるんだ部分は骨格より遅くなるような動きをつける必要があります。
そのような動きを取り入れる手法を『ドラッグ』(のこし)といいます。
私たち人間を始め、全ての脊椎動物は骨を動かすことで体を動かしています。
筋肉は骨についていく形で動くため、骨格より少しだけ動きが遅れます。
以下の動画はチーターのスーパースロー映像です。
よく見ると実際に骨の動きに対し、筋肉が後からついてきているのがわかります。
筋肉に対し骨から遠い部分の肉、つまりは体の『たるみ』の部分はドラッグの動きが非常にわかりやすく出ます。
以下の動画は犬が体を振る動きをスーパースローカメラで撮影されたものです。
体の柔らかい『たるみ』の部分が遅れてついてくる動きがよくわかります。
アニメーションではこのわかりやすく出るたるみの動きは絶対に取り入れないといけません。
厳密に考えると筋肉のようにたるみ以外の肉の部分も骨より動きが遅くなりますが、アニメーションではそこまで忠実にする必要は必ずしもはありません。
重要なのは現実でも見て取れるほどの動きは、アニメーションでも取り入れないと違和感のある動きになってしまうということです。『ドラッグ』はとても重要なもので,取り入れないと柔らかみが全くないキャラクターになってしまいます。
カテゴリー4 『フォロー・スルー』
4. 人物の特徴はアクションそのものより、アクションの終わり方によりよく表れる。 ゴルファーが猛スイングした場合、その動きは数コマですむが、スイング直後の彼の姿を示す部分は優に3秒以上は続けられる。 (中略) まず、予備動作が観客に(あるいはキャラクター自身?)アクションを予想させ、アクションがビューンと進行し、それからギャグの「オチ」の部分、すなわちフォロー・スルー[訳注:原意は「振り切ること」] が示される。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.65 より
キャラクターは何かのアクションをしたとき、そのアクションの終わりには必ず何か別のアクションをしています。
その終わりに表れるアクション、ギャグでいう「オチ」の部分が『フォロー・スルー』です。
アクション流れは基本的に以下の流れになります
Anticipation(予備動作) Action(アクション) Follow Through(フォロー・スルー)
本のゴルファーの動きの例をそのまま使うと、以下の流れでアクションが成立しています。
①『予備動作』ゴルフクラブを振りかぶる動き
②『アクション』スウィングする動き
③『フォロー・スルー』飛んで行ったボールを眺める
よくある動き一連の動作ですがここで考えてほしいのが、この例の③『フォロー・スルー』の動きはこの動きでなくても成り立つという点です。
例えば③の動きを『ゴルフクラブにボールが当たらずコケる』という動きにしてもアクションは成立します。
このように実際のアクションの後にする動き『フォロー・スルー』によって、そのキャラクターがどんな動きをしたのが決まってきます。つまり本でいわれている通り『フォロー・スルー』はギャグでいう「オチ」の部分であるというわけです。
カテゴリー5 『ムービング・ホールド』
5. 最後に〈ムービング・ホールド〉であるが、これは今まで説明してきた〈オ―バー ラッピング・アクション〉や〈フォロー・スルー〉の要素を用いて、生命感と明快感を新たに生み出す手法だった。 (中略) やわらかい部分に〈フォロー・スルー〉を使うことで実質感と奥行きを感じさせ、ドラッグで重量感と本物らしさを出しながら、ポーズを強化して活気を与えることができるようになった。それらが合わさると、そのカットはさらに生き生きとしたものになった。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』p.65-66 より
今までのカテゴリー1〜4はそれぞれ1つずつ取り入れることはほぼなく、組み合わせて取り入れられることがほとんどです。
カテゴリー5はそれらの動きを合わせて取り入れることで、キャラクターに柔らかさや重量感を与えることができるというものです。
それぞれのカテゴリーの内容は多少違いますが、結局この原則でいいたいことは冒頭でもいったとおり『全てのパーツが同時に動き出し、全てのパーツが同時に止まることはない』ということです。
この原則のすべてのカテゴリーを意識し動きに取り入れることですることで、キャラクターに実在感や生命感を生み出すことができます。
ディズニー作品での実用例
カテゴリー5でも説明した通り、今までのカテゴリーは組み合わせて動きに取り入れられています。
基本どの動きも同時に動き出したり、止まったりすることはありません。
そのため以下ではカテゴリー1~4の内容で分かりやすく表現がでているディズニー作品のシーンを紹介します。
ライオン・キングでは、シンバの首が止まった時、葉っぱのタテガミは一緒に止まることはなく動き続けます。
この動きはカテゴリー1『慣性』にあたります。メインの動きが止まっても、それについてくるものは『慣性』によってすぐに止まることはありません。
映画『ライオン・キング』(1994)より
また、シンバが首を振りはじめるとタテガミが遅れてついてくる動きもしています。
この遅れる動きはカテゴリー3『ドラッグ』です。
メインの動きに追従する動きを少し遅れて描くことでタテガミの柔らかさが表現できています。
『ドラッグ』というと体のたるみが遅れてついてくる表現も必ず取り入れられています。
太ったキャラクターほど遅れが大きくなり、わかりやすい動きになります。
ズートピアに出てくる太ったチーターのクロウハウザー。
彼の頬から首回りにかけてのたるんでいる部分はとても柔らかそうに見えます。
これは『ドラッグ』を使い、たるみの部分の動きを少し遅らせているためです。
映画『ズートピア』(2016)より
少し話が変わりますが、このシーンにはジュディの耳が垂れ下がる動きもあります。
悲しい顔と耳が垂れ下がる動きによってこのシーンを見ただけでも『何かショックなことがあった』ということがわかります。これも12の原則の1つです。
まとめ
今回はFollow Through and Overlapping Action(あと追いの工夫)についての内容でした。
この原則での動きは、現実でも当たり前に起こる動きです。
それらの動きを取り入れることでキャラクターがまるで本当にいるのではないかという実在感が生まれます。
現実で起こる動きをキャラクターに取り入れることで、生命を吹き込むことができます。
そのためにはリアルの動きをよく観察する必要があります。
アニメーションを作る時は頭の中のイメージだけではなく、しっかりと現実の動きを観察することも重要です。