【アニメーション12の原則】Exaggeration(誇張) とは -命を吹き込む魔法-
今回はディズニーの本『The Illusion of Life』に書かれているアニメーションの12の原則の『Exaggeration(誇張)』についての内容を詳しく説明していきます。
実際に『The Illusion of Life』に書かれている内容や、この原則が使われているディズニー映画のシーンも合わせて説明していきます。
アニメーションの12の原則の内容を簡単にまとめてあるページもあるので、ぜひそちらもご覧になってください。
Exaggeration(誇張)
この原則はその名の通り、キャラクターのアクションを誇張するというものです。
驚いた時に目を飛び出させたり、辛い物を食べた時に火を吹いたりと誇張には様々な表現方法があります。
現実の世界では起こりえない誇張した動きをキャラクターにさせることで、その動きをより印象付けさせることができます。
手塚治虫もマンガでの誇張表現は重要だと考えていました。
大あらしの絵がある。家並みが、そろって弓なりにしなっている。あんな家があったらたいへんだ。家のなかはめちゃくちゃだろう。高層ビルもグニャリと曲がって描かれる。あんなになるには風速百メートルぐらいが必要になる。この絵もウソなのだが、こうやって描くと、いかにも大風のように思えるからおもしろい。
つまり、マンガは、その表現がおもしろければ、どんなデタラメを描いたてもいいというおスミつきがある。『手塚治虫マンガの描き方』p28 より
マンガと同じくアニメーションでもその表現がおもしろければどんなデタラメを描いてもいいのです。
誇張表現を使ったアニメーションで有名なのは『トムとジェリー』です。
『トムとジェリー』のたいていの動きには誇張表現が取り入れられています。
ストーリーがなくとも、その動きだけで面白いと感じられるのが誇張表現の強みです。
参考:映画『トムとジェリーのオズと魔法使』(2011)より
誇張表現は現実で起こりえることのない動きのため基本的にはアニメーションならではの表現ですが、実写映画でこの表現を使った作品もあります。
映画『マスク』では実写映像にマンガのようなオーバーアクションを数多く取り入れたコメディ映画です。下のシーンは目やベロを飛び出させ驚きを誇張して表現しています。
参考:映画『マスク』(1994)より
誇張表現は大袈裟にするほどコメディ調のものになります。
そのため何でもかんでもテキトーに誇張させればいいという訳ではありません。
ホラー映画でお化けを見たときに、キャラクターが上のシーンのように目を飛び出して驚いたらどうでしょうか。お化けの怖さよりその驚き方に面白さを感じてしまう感情のほうが強いと思います。
コメディー映画ならそれで成功ですが、観客を怖がらせたいのであればこの表現は適切ではありません。誇張の加減にもよりますが基本的にはコメディー映画以外のジャンルには”強めの誇張”は入れるべきではありません。
このように誇張表現は、作品の雰囲気や世界観に合わせた誇張表現にする必要があります。
ディズニーは誇張表現について以下のように考えていました。
ウォルトはリアリズムを重視しろと命じておいて、あがってきた絵を見ると誇張が足りないと文句を言ったので、アニメーターたちは混乱した。ウォルトにとっては、両者は矛盾するものではなかったのだろう。彼はものごとの核心に迫り、そこに見たエッセンスを発展させるべきだと考えていた。 (中略) 「誇張」と聞いて、絵を歪曲したり、不愉快なほど暴力的なアクションを描いたりすること を想像した者もいたが、それは見当違いだった。ウォルトが求めていたのは、戯画化されたリアリズムだった。あるアニメーターは、それを次のように正確に分析した。「ウォルトが言っていたのはいわゆるリアリズムとは違う。彼の言うリアリズムは、説得力のあるもの、 人々の心に強く訴えるもののことなんだ。リアリズムという語を使ったのは、現実のものを求めたからだ……(アニメーションの)キャラクターは、説得力のないことや、アニメーターの賢さをひけらかすようなことをしがちだけれど、それは現実じゃなくて嘘になってしまう」。ウォルトは信憑性を損なうものは受け入れなかったが、アクションの狙いさえ正しければ、表現を抑えろと要求することはまずなかった。
『生命を吹き込む魔法 –Illusion of Life–』pp.69-70 より
簡単にまとめると以下の2つを意識して誇張表現を取り入れましょうということです。
・誇張表現を取り入れる動きの真髄、肝となる部分を誇張させる。
・その誇張の動きは説得力のあるものにしなければならない。
誇張表現は似顔絵のようなもの
ディズニーの考える誇張表現の良い例が似顔絵です。
街中で見かける似顔絵師の絵はデフォルメされたキャラクターにして描かれています。デッサンのように写実的なものではありませんが、その絵が誰をモデルに描いたのか一目でわかります。
それはモデルの特徴をとらえているためです。
似顔絵はモデルを特徴付ける重要な部分を押し出しているため、写実的にしなくとも伝えることができるのです。
参考:『Pixar animation studio』より
(左からエドウィン・キャットマル/スティーブ・ジョブズ/ジョン・ラセター)
本にも書かれているウォルト・ディズニーが求めていた『戯画化されたリアリズム』という言葉は、原文では『Caricature of realism』と記されています。『Caricature』とはイタリア語で『誇張する』を意味する『Caricare』が語源の『人物の性格や特徴を際立たせるために誇張や歪曲を施した人物画』を意味します。似顔絵師が描くような絵も『Caricature』と呼ばれます。
つまりディズニーが考える誇張表現も似顔絵の概念と同じということです。
キャラクターの動きの重要となる部分のエッセンスを押し出し誇張することで、リアリティを失わず動きを大袈裟にでき、より効果的な表現にすることができるのです。
誇張表現は発想力が重要
他の12の原則は、どちらかといえば現実の世界の動きに近づけるためのものです。
そのためアニメーターによって多少の違いはでてきますが、大体は同じような動きになります。
対してExaggeration(誇張)はアニメーターのアイデアによって全く違ったものが出来上がります。
そのため、その動きには作り手のセンス、オリジナリティなどが出てきます。
ここで注意しないといけないのは誇張する部分を間違えてはいけないという点です。
他と差別化のために独特な誇張表現をしたとしても、それがうまく観客に伝わらなければ意味がないどころか、マイナスイメージにつながってきます。
誇張表現はアイデアとともにリアリティ(説得力)をいかに失わせないかが重要です。
また、あまりにも誇張した表現にしすぎると違和感を覚える人が出てきます。
それぞれの考え方や感じ方があるため一概に言うことはできませんが、アニメーターは観客が適切と感じる誇張表現することが重要です。
ディズニー作品での実用例
ウォルト・ディズニー全盛期の時代のアニメーションは、今の時代のようにストーリーよりもキャラクターの動きに面白さを感じさせる作品が多いです。これは『トムとジェリー』でもいえることですし、喜劇王チャップリンの影響も強かったためでしょう。
技術が進んだ現在ではキャラクターの動きがしっかりしていること(アニメーションの12の原則が取り入れられていること)は大前提で、ストーリーに重きが置かれている場合が多いです。
そのため動きを重視した昔の作品ほど誇張表現は大袈裟に取り入れられていますが、最近の作品ではそこまで過度な誇張表現はされていません。
ここではわかりやすく誇張表現がされている昔のディズニー作品をご紹介します。
下のシーンはドナルドたちがサメから逃げるシーンです。
その慌てっぷりから海の上を走ったり、オールを脚に見立たボートが走るという現実ではありえない動きの面白い誇張表現をしています。
『ディズニー・コメディ・タイム ドナルドの海洋団』より
アラジンではランプの精ジーニーの動きに誇張表現が多く取り入れられています。
下のシーンのようにアゴが外れる動きを誇張し衝撃、落胆をより印象付けさせています。
映画『アラジン』(1992)より
実在する人間や動物ではなく、ランプの精という架空の存在のキャラクターなので動きに制約をする必要がありません。そのため通常以上の誇張を取り入れても違和感のない動きとして見ることができます。
まとめ
今回はExaggeration(誇張)についての内容でした。
誇張表現はアニメーションならではの表現で、コメディ調の作品に多く取り入れられます。
最近の作品では過度な誇張は少ないですが、多少の誇張はは取り入れられています。
現実と全く同じ動きではわかりづらい場合もあります。
そういったときに通常より少し誇張した動きにすることで、見ている人はその動きを理解しやすくなります。
誇張表現はおもしろい表現を前面に押し出すだけではなく、動きをわかりやすくするサポート的な役割にすることもできます。
誇張の加減をしっかりと考え、動きをより効果的に表すことのできる誇張表現にすることが重要です。